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糸谷哲学

直感は経験の集積から成る分析


005.新人王獲得後の週刊将棋の取材にて(その1)

今回は、新人王獲得後の週刊将棋によるインタビューより抜粋。構成として三段落ぐらいに分かれているので、こちらでの取り上げ方もそのようにいきます。まずは獲得時の喜びのコメントと、当時対振り飛車のメイン戦法であった「糸谷流体振り飛車右玉」についてのやりとり、です。

最近はテレビ登場の機会も増えたので、あの喋り方で脳内再生してもらえると、とてもしっくりくると思います。

映画版の「ソーシャル・ネットワーク(by楽天市場)」ではギークな登場人物たちがとても早口で物語が展開されていきます。自身の思考展開に喋りが追いつかないような、溢れる思考の流れに追い立てられるような喋り方。興奮を抑えられないような、熱が入るにつれてやや高くなっていく声。

IQが高く、好奇心旺盛で、楽しいことに対する集中力が人並外れていて、変に大人ぶらない人達に共通するような特徴であるように私は考えています。糸谷哲郎プロの喋り方を知らない人は、そんな風な喋り方をイメージしてもらうと以下の文章がより楽しめるかもしれません。


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--わずかデビュー半年で若手棋士の頂点に立ちましたが、率直な感想は?
「プロになって半年で新人王を取れたことは非常に嬉しいことだと思います」

--決勝トーナメントを振り返って、印象に残っているのはどの将棋ですか。
「三段時代に村田先生(智弘四段)に勝ったのは嬉しかったですね。強い四段の先生というイメージがあったので、勝ったことで自分の将棋が通用するのかなと思えて。自信につながりました」

--決勝三番勝負は関東の横山四段でした。初戦から糸谷流が出ましたね。
「戦前に右玉を使うと予告したので、取りあえず一回お見せできて安心しました」

--振り飛車に右玉を採用してみようと思ったきっかけを教えてください。
「あまりいい振り飛車対策がなかった時期に奨励会の牧野三段が級位者時代に指しているのを見て、形から入って自分なりに仕上げていったんです」

--振り飛車三強の藤井九段、久保八段、鈴木八段との対戦が待ち遠しいですね。
「ぶつけてみたい気持はあります」

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三段時代に参加した第37期新人王戦。勝ち抜いている途中でプロになり、そのまま優勝、という流れでした。「出場時には三段で、勝ち進んでいる間に四段に昇段して優勝」というのは、第5期優勝の青野照市・第18期の森内俊之・第37期の糸谷哲郎の三人しかいない。

青野照市・森内俊之の棋歴を考えると、今後の糸谷哲郎の活躍に期待してしまうのは私だけではないだろう。新人王を獲得した棋士のA級到達率・タイトル挑戦率・タイトル奪取率は相当に高い。

新人王戦の決勝で見せた「糸谷流対振り飛車右玉」だが、この当時は比較的頻繁に投入していたが、最近は殆ど無く、あっても持ち時間の短い将棋において、という印象だ。

順位戦で中堅どころの振り飛車党に対して投入し良いところなく敗れたり、ベテラン振り飛車党の棋士に投入して指すところ無い状態から大逆転したり、それほど思わしい戦果を挙げられなかったので仕方ない。

ただし、振り飛車党御三家への投入ということでは、NHK杯という大舞台で念願を果たすことが出来、しかも圧勝している。それが、2010年1月25日に放映された第59回NHK杯三回戦「糸谷哲郎竜王vs鈴木大介八段」。(私も過去に感想を書いたのだがFC2のサーバが壊れてバックアップがなく消失してしまった、という恐ろしいことに…)。

ここで積極的に棋譜を公開することは私の方針に反するので行わないがその取得が不可能ではないことは認めておきます。記憶では、対振り飛車右玉としてはいわゆるハマった展開で、序盤で既にかなり作戦勝ちになっていたように思う。

両方の桂馬の活用が図られ、盤面の左側で戦いが始り、角のポジションが絶妙、という右玉としては言うことのない展開だった。

ただし、私も使い手であり自覚しているところだが、幾つかの有力な対策があり、それらによって迎え撃たれると、勝ちにくさがあるので持ち時間が長いところでは使いにくい、TPOを考えて用いたい作戦だ。

私事で恐縮だが…。(以下、完全に私事なので糸谷ファンはスキップ推奨です…)。

帰省時にぶらりと立ち寄った某道場のS級トーナメントで準優勝したときは、全局対振り飛車右玉になり(アマだと振り飛車党が多いのであり得る)、私のスーパー早指しと序盤のハメ展開への見事なハマりっぷりで、死んだふりからの相手のうっかり頓死、時間切れを含む勝ち上がりで決勝戦。10割まぐれ上がり、という状況。

決勝の相手は。その地方では取ったことのないタイトルが●●(地域の名前)名人だけ、というアマ強豪の方(ただし若手ではなく、全盛期からは大駒1枚は落ちていてもおかしくない)だった。

序盤の駒組で完璧に待ち受けられ、こっちも完全形なので仕方なく攻めてやや苦しい展開。そこから中盤で投げようとも思ったが、決勝戦なので申し訳ないので指していると終盤にややチャンスのある場面を迎えたようにみえたが、相手の用意があって「その手があるならハッキリ負けですね」という感じになって形作りから投了。(もう少し辛抱してもノーチャンスだったようにも思うが)。

将棋的には開戦時の様子としては「第4回朝日杯二次予選▲矢倉規広vs△糸谷哲郎」に似ていた。正直、こういう将棋はプロではあまり美しくないと思う。46手目、桂馬を跳ねたところでは、仕方なく目をつぶってやっているような印象で、しかしこの戦型の特徴のひとつを如実に示している。

「新人王獲得後の週刊将棋の取材にて(その2)」に続く…(次回更新にて)

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