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糸谷哲郎八段、遂にA級に!第76期B級1組順位戦を振り返る。(その2)

最後ちょっと失速しましたがそれでもB1一番手での昇級になりましたね。二番手が3・4敗で追走していただけに三馬身差、余裕のあるレース展開でのG2勝利、というかんじでした。

その2では残りの対戦、6~11回戦について。

第76期B級1組6回戦 ▲糸谷哲郎八段vs△丸山忠久九段

一手損角換わり戦法というのは現在使う人はほぼこの二人だけ、という感じの二人による対戦。後手番になったほうが使うのは予想されていましたがかなり独特な形に進展しました。双方居玉で飛車のコビンを開けて行く…という。結局、相早繰り銀というあまりプロ将棋では見ない(最近はでつつある?)作戦から後手が先攻、先手が受ける展開に。

薄い玉での受けに強みのある糸谷さんがやってこいと誘導した選択肢なのかもしれません。後手が先に成銀を作った辺りではアマチュアだと先手を持って気持ち悪いですが、そこからの指し回しが絶品で単手数で糸谷八段の勝利となりました。

第76期B級1組7回戦 ▲松尾 歩八段vs△糸谷哲郎八段

この将棋は是非鑑賞して欲しいですね。謎すぎるので。謎すぎる糸谷さんの強さが存分に出ています。勿論強いんですが、後手番をどのように考えているか?がよくわかる将棋だと思います。糸谷さんが用意していたのは阪田流向かい飛車と呼ばれる、町道場で74歳ぐらいの初段の老人が未だに使ってそうな作戦で、ほぼ最近では見られません。一時期、居飛車党が後手番で試していた(天彦名人や渡辺明さんも!)のですが、流石に使えないということで見られません。そういう戦法です。

しかし。正統派居飛車党の松尾八段にこれを投入。研究家の松尾八段でも流石にこの作戦へのケアは無かったかもしれません。恐らく一手損の展開を予習してたのではないでしょうか。先手としてはその準備が全部無駄になった感じでローテーションの谷間的作戦としてまずはそのメリットがあります。

先手が二筋に歩を打っておさめた辺りは形勢は別にしても金が十分に威嚇出来たといえるかもしれません。ただ斜めにバック出来ないので如何にも重い。ちょっと糸谷八段と重なるところが…というと怒られますねw

おさめてからじっと攻撃態勢を取り続ける後手とちょっと待つだけになってしまった先手、という構図からの糸谷八段の手順が渋い。中盤はこれぞプロ、町道場とは訳が違う、同じ戦法でもこんなに違うのか…と驚かされます。ご家庭に よくある材料で一流シェフが作ってみると?という料理番組のような将棋です。

遂に仕掛けて飛車交換になったところでは陣形の差もあり後手優勢に見えます。そこからの手順も本当に素晴らしく、しかもそこまでは早指しだったのによくなってからじっくりと時間を使い102手での勝利となりました。これで六連勝。充実の内容とともに今期の昇級が決まったように私が感じた対局でした。

第76期B級1組7回戦 ▲ 糸谷哲郎八段vs△谷川浩司九段

この勝負、ちょっと嫌な感じがしていたのですが、谷川先生に確か糸谷八段が直近で連敗していたんですよね。また谷川先生は糸谷八段のデビュー当時、すごい怪物くんが出てきましたが?というような質問に対して「そのうち(プロの)皆さんの目が慣れるでしょう」というような発言をしており、なんとなくケレン味を嫌うというか、糸谷八段の人間性や普及熱心な所などは高く評価しているのだと思いますが、「ちょっと阪田流向かい飛車とか舐めプじゃね?」と思ってるフシがあります(私の勝手な憶測ですw)。

で、そういうお方に対して糸谷八段が指した初手が…▲36歩。これ将棋ウォーズでやられても「え?舐めプっすか?え?え?」となる手ですよね汗。それを谷川先生に…と初手を見ただけでチビリそうになりました。正確にいうとパンツは履き替えました(婉曲的)。

ただ、この手がない手なのかといえばその後の手順をみるとなるほど納得。飯島七段?の著書で有名な引き角戦法のような陣形を狙うのであれば確かにありです。ある程度組み合ってからの31手目、16歩が手持ちの角を使って両取りにする分かりやすい狙いで、これが通るなら先手がペースを握れるかも?と思って見ていると、谷川先生が15歩を取らずに95歩と反撃。…やはり舐めプに怒ってらっしゃいますね…ガクガクというかんじです。

対する糸谷八段は最も大胆不敵な応じ方をした結果…玉が単独で6段目に飛び出すというあまり見ない状況が生まれました。美濃囲いそのままに玉だけ泳いでます。一手間違うと即死、という状況ですので流石の糸谷八段もじっくり時間を使いながら手が進みます。正確に指せるのであれば恐らく先手が良いのだろうな、という気がしました。そして最後まで先手玉が自陣に戻ることがないままに後手投了となり七連勝。

この6・7回戦がとても大きな勝利でしたし、とても糸谷八段の特徴が現れていて私は好きな将棋です。



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