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糸谷哲学

直感は経験の集積から成る分析


001.神吉宏充、糸谷将棋を語る

将棋世界 2006年 11月号」の神吉宏充のワンダフル関西より

ダニー語録は本人のインタビュー記事や自戦記、評伝は特集や記事における他棋士・記者による糸谷将棋の解説について記そうと考えている。記念すべき第一回は、「将棋世界 2006年 11月号」の神吉宏充のワンダフル関西より取り上げた。

実際に対戦した神吉宏充プロによる、噂に聞いていた糸谷将棋、糸谷流対振り飛車右玉の体験記?になっている。

【負けた将棋だけ紹介された男】
さて、以前から大物と称されている糸谷哲郎四段と9月7日、王座戦で初めて対戦した。糸谷君はこのコーナーで2回取り上げたが、その時紹介したのがたまたま負けた時の将棋。実は糸谷、プロになってその紹介した2回しか負けていないのだ。

9月19日現在不戦勝も含めて12連勝で継続中。通算も14勝2敗と怪物ぶりをみせている。糸谷君の得意形は、対振り飛車には右玉と聞く。そこで序盤早々暴れてみることにした。 (中略)


【当サイト管理人の一言】
ここにある2敗というのはカニカニ銀の児玉孝一プロに負けた将棋と、順位戦の堀口弘治プロに負けた純粋王手馬のうっかり負けである。他の将棋、例えば後述の野田敬三プロとの将棋でもプロ的には必敗からひっくり返すなど、24で鍛えた実戦的な糞粘りが功を奏しているケースが多く、そういうなかでの14-2であるというのは凄い中終盤のセンスを備えている証拠でもあると言えるのではないか。


【糸谷将棋の強さとは】
何ということだろう。△7二飛という最強の受けがあった。だからといって第4図まで進んで、悪いわけはない。悪いわけではないが、何となく後手も踏ん張っている感じで、この後なかなか決め手が見つからず長期戦になった。そして根負けして攻めあって、最後は糸谷君の鋭い寄せに屈した。この強気と粘り強さと寄せの鋭さが糸谷将棋なのである。


【当サイト管理人の一言】
盤面図を置いていないのでわからないかもしれないが(あえて盤面を載せないが)、この△7二飛というのは先手からの角打ちからの両取り(2二にある駒と7三にある駒の両取り)に対して、受けた手。対振り飛車右玉をやる人だと急戦調の流れでこういう展開があることを知っていると思う。

初期の糸谷将棋は、本人が言うとおり、すべての用いる戦型において研究が行き届かない状態にあった。それは純粋に地方に住むデメリットで、どうしても最新型に疎い状態というか遅れるというところがあったのだろう。また、全般的に早見え故の早指しで、順位戦でも時間を使わないということもあった。

そして強気から中盤の粗さにより悪くなり、そこから腕力で強引にマクり返す…ことができないこともある、というような将棋だった。ただし有り得ないほどの逆転があったのも事実で、それらが魅力でもあり、歯がゆさでもあった。

しかし大学に進学してからは、一人暮らしを始め、関西若手連中とマンションを借りて研究部屋としているという話も見たことがあるが、おそらく一手損角換わり戦法においては、最もその本質を知悉している棋士の一人ではないかと思う。

居玉を厭わず、初見での手の見え方と形勢判断に優れ、強気を貫くことができ、悪くなってからの粘りに長けている、という糸谷哲郎プロの特性は一手損というパラレルワールドにおいて大きな強みになっている。

一手損角換わりについて、米長邦雄会長が「『一手損角換わりの結論は後手不利』であろう。ただしそれが解明されるのが私の生きている間なのかはわからない」という名言を残している。私はおそらく、この一手損角換わりの寿命とトップクラスにおける勝率が糸谷哲郎プロの直近の命運を分けるのではないかと考えている。

トッププロ、A級やタイトル戦において、最近あまり出現していないのが気になるが、個人的な愛用の状況もあり、応援したいと思う。


「将棋論考vol.117 (真部一男)」に続く…(次回更新にて)

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